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<<   作成日時 : 2017/01/07 12:43   >>

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年末年始の休み中に、ネットなどで評判がよかった

       山口昌子:パリの福澤諭吉 ― 謎の肖像写真をたずねて
              中央公論新社.2016.
              ISBN978-4-12-004916-3 C0095

を読んだ。著者は在仏歴の長いジャーナリストで、慶応のご出身、東京に戻られた折に、国立博物館で開催中の「福澤諭吉展」を訪ね、展示されていた福澤先生の若い時の肖像写真に衝撃を受け、その経験の熟成が本書になったとのことである。この展覧会は、後に福岡市美術館でも開かれたから、わたくしも観ており、図録

       慶應義塾・東京国立博物館・福岡市美術館・大阪市立美術館・産経新聞社(編):
              慶應義塾創立150年記念 未来をひらく 福澤諭吉展
              慶應義塾.2009.

も購入して手元にある。ちなみに、この展覧会の英文表記は

       FUKUZAWA Yukichi: Living the Future

であった。

この写真(図録 6-P04)(同 p.212)は、諭吉が幕府派遣の第一次文久遣欧使節団(1862年)の一員として渡欧した際に、パリで撮影されたものである。撮影者、ネガの来歴は示されているが、諭吉の肖像写真としては他に類のない迫力(オーラと著者は言う)を感じ、以来著者の心に残ったという(なお、本書にある横顔、斜めの写真は、図録に鮮明なものがあり(1-P03、1-P04)(同 pp.56-57)、他にも、本書で著者が言及している肖像写真類は図録で確認できる(図録の表紙も横顔写真である)。

ところで、パリで撮影された諭吉の肖像写真の来歴が鮮明ではない。パリの「人類学博物館」に原本があり、撮影者名もポトーであることが展示品には記されている。また、福澤諭吉の著作集、全集、さらに、関連する文献類から、第一次文久遣欧使節団の欧州滞在の様子や(ジャーナリズムに目覚めつつあるとも言える)諭吉の行動についても概ね再現できるようであるが、いざ、詳細に立ち入ろうとしてみると、肝心の撮影者やネガの所在、また、撮影事情に到る事情が不明であり、ここに、謎という所以がある。

ここで、(一線を離れていたとはいえ)著者のジャーナリスト魂がむくむくと頭をもたげ、関係のありそうなところを片っ端から訪れ、インタビューを繰り返し、本書が出来上がったということであろう。本書がジャーナリストの著作であって、歴史家のものではないことの違いも明らかで、実際、随所に諭吉の心象風景の想像が混じるのは、ジャーナリストだからであろう。確かな臨場感があるようであるが、歴史家ならば(史資料に基づく)証拠を挙げることができなければ、許されない作業であろう。

余計なことかもしれないが、往時のパリの地図、街路図を付してあったら、もっとよかったと思う。それに、わたくし自身は、もう20年もパリに近づいていないせいか、この間の変化の大きさが、著者がいろいろと訪ね歩く先が新設の博物館であったり図書館であったりだけに痛切にわかる。暇になったら、ぜひパリに行ってみなければ、という想いにさせられた。

ただ、わたくしにとって、本書で一番興味深かったところは、第4章第5節の「滞在費の謎とサムライの意地」であった。フランスおよびイギリスの資史料に拠っているが、おそらく、オランダ、ドイツやロシアにも関係する資料は残っているだろう。ポルトガルにも多分。日本側の資史料が、幕末の混乱、関東大震災、戦災によって、どのくらい失われたのか。

日本の対外関係の主な課題が、すでに、この時代(の幕府)当事者にきちんと意識されていたことが、これら資史料の存在だけからも推察される(勝海舟は咸臨丸での渡米から帰国した後、幕府の高官に向かって、アメリカと日本の違いは高位の職にそれにふさわしい人間が就いているかどうかだ、と憎まれ口を叩いてはいるが)。そして、著者が(福澤の心象風景の形で)指摘している「夜郎自大な国内世論」(当時なら、攘夷論)と現実の世界(情勢)との乖離が、ここ一世紀半余りを通じて常に日本の課題となっていることもわかるのである。

蛇足であるが、本書には(誤植とは言えない)自明なミスがいくつかあり、280ページの右から4行目の「四萬余」の扱い、208ページ右から8行目の「ナガ族」に伴うものは深刻である。

本書目次を掲げておこう:

       序章
       第1章 はじめてのパリ
       第2章 パリの取材に奔走
       第3章 写真家ポトーの謎を解く
       第4章 パリ再訪
       終章
        あとがき
        取材でお世話になったフランス・日本の方々
        参考文献

索引はない。







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